Die Maiden des Regens zwei 

 「ごきげんよう、由里香」

 「あ、蒼子。おはよう」

 ごきげんようの挨拶が出るときは蒼子の機嫌がいい証であることを由里香は知っている。ただ昨日まではいつもどおりだったのが今日になっていきなりご機嫌というのはさすがに由里香は気になった。

 「ねえ、蒼子」

 「なぁに?」

 蒼子は傘をさしているのに優雅とも呼べるほどの動作でこちらを向く。その唇にはわずかに微笑みさえ浮かんでいた。

 「何かいいことあった?」

 「え? いえ、とくには何もないけれど」

 なんでそんなことを聞くの、という疑問が顔に浮かんでいるのが見える。蒼子自身ではもしかしたら気がついていないのかもしれないと由里香は思った。

 「だって、今日の蒼子凄く楽しそう」

 「ああ、それはね」

 蒼子は納得したように頷く。

 「ほら、こんなに綺麗な雨は久しぶりでしょ?」

 「・・・・・・綺麗な雨?」

 「ええ、綺麗な雨」

 思わず繰り返した由里香に律儀にも蒼子自身も繰り返した。

 「わかりやすく言うのなら、激しく降るのではなくしっとりと降るといったところかしら」

 「しっとりと降る雨かぁ・・・」

 由里香は雨が自分にかからない程度に傘を逸らして、空を見上げながら答えた。昨日蒼子が教えてくれたから傘の準備は抜かりない。

 「やっぱりさ」

 「なに?」

 「雨降りの日が好きなんて変わってるよ、蒼子。雨の日っていったら普通は憂鬱になる人のほうが多いよ」

 「・・・そうね、そうかもしれないわね」

 これを言ったのは実は初めてではなかった。既に同じことを何度か言ったことがある。そして、その時の蒼子の答えはいつも同じだった。

 「でも、そんな日だからこそ楽しく過ごせたら素敵でしょ?」

 そう言って微笑む蒼子はとても綺麗で、その後には見惚れてしまうこともいつもと同じなのだった。


[ 2006/07/17 15:43 ] SS | TB(0) | CM(0)

Die Maiden Des Regens 

「明日、雨降るわよ」

 六条蒼子は唐突に言った。

「そう」

 見上げた空は清清しいほどに澄み渡っていたが、意に介した様子もなく桜井由里香は答えた。

「あれ、信じるの? テレビの天気予報とは違うのに?」

「そりゃあね、あれだけ言い当てれば天気予報よりも蒼子の言うことが正しいのかも、って思っちゃう」

「ふふ、ありがと」

 そういって蒼子は柔らかに微笑んだ。その小さい優雅な笑みは蒼子の元々の美しさをより一層際立てる。

 由里香は蒼子のこの笑い方が好きだった。自分にはできない上品な笑い方。鏡の前で練習したこともあるが、蒼子のそれとは似ても似つかない。
 
 そのうち、蒼子だから似合うんのだろうと思うようになった。他の誰でもない蒼子の微笑みだからこそ、あれだけ美しいのだと。

 「ねぇ、蒼子」

 その整った横顔に声をかけた。

 「なに?」

 前を見ていた蒼子が少しこちらを向く。

 「なんで自分には雨が降ることがわかるんだろうって、考えたことある?」

 「もちろんよ」

 「なんでだと思う?」

 「きっとね」

 そう言って蒼子は少し前に出て立ち止まり、振り返ってこっちを向いた。黒々とした長い髪が一瞬間遅れて、蒼子の動きに追いついてくる。

 顔にかかる遅れ髪を指で押さえながら、私の目を見てこう言った。

 「あなたに雨が降る日を教えるためよ」

[ 2006/06/12 18:51 ] SS | TB(0) | CM(0)

2/14 ローゼンメイデンのSS 

 先週秋葉に行ったとき見かけたローゼンのDVD。欲しくなってしまったので今日ついに回収に成功。見ているうちに閃いたのがこれ。感想等はご自由にどうぞ。7/16一部修正



  この休みを過ぎたら僕は学校に行こうと思っている。今までは行かなかったこともある。行けなかったこともある。でもこれからは行く。そのためにこうやって勉強もしている。

 しばらく勉強を続けていると、誰かが階段を上がってくる音がした。声も聞こえる。

 「チビ人間〜。いるですかー?」

 僕をこう呼ぶのはこの家に一人、いや一体しかいない。でもこう言ってくるときには、今までろくなことが合ったためしはない。僕は答えなかった。

 「いないですかー?」

 そう言いながらドアをあけて入ってくる。

 「まったくぅ、いるなら返事くらいしやがれですぅ」

 「聞こえてるよ、翠星石」

 僕は教科書から目を離さずに答えた。どうせ暇つぶしにいつもの悪態を言いにきたに違いない。

 「おやー、チビ人間が勉強してるなんて意外ですぅ。でもダメダメな脳みそには何をやらせてもダメダメなのは変わりないですよ」

 「おい、邪魔をするならどっかいけよ」

 あまりにも想像通りで怒る気も起きなかった。かわりに冷たくあしらって早々に出て行ってもらおう。

 「チビ人間・・・。あの・・・」

 「ん?」

 どうしたのだろうか、いつもなら口を開けば罵詈雑言の翠星石が今日は歯切れが悪い。目をやると少し伏し目がちになっている。一瞬あとには顔をあげて聞いてきた。

 「今日、どこかでかけるですか?」

 「昼から勉強しに図書館にいくけど。・・・それがどうした?」

 「別に何でもないですぅ。チビ人間がいなければこの部屋で遊ぼうと思っただけですよ」

 「ふーん。まぁいいけど。置いてあるものは壊すなよ。」

 「そんなことはわかってるですよ」

 「どうだか」

 以前雛苺と翠星石が騒いでいるうちに僕のノートがぐしゃぐしゃになってしまったこともあった。

 「まったく、失礼な奴ですぅ」



 そう話していると下から姉ちゃんが呼ぶ声がした。どうやら昼食の時間らしい。

 「翠星石、呼んでるぞ」

 「ここにいるのだから翠星石にも聞こえてるですぅ。それよりチビ人間は運動不足なのに食べてばっかりだからきっとぶくぶくになるですよ。あわれな奴ですぅ」

 僕は翠星石の言葉を聞いたときにはもう歩き始めていた。

 「こら! 待つですよ!」

 そういいながらも翠星石はついてくる。

 「♪〜」

 しかもなんだかご機嫌だ。足取りも軽やかになっている。

 「翠星石、なにかいいことでもあったのか?」

 「え? い、いや別に何もないです」

 「ふぅん、変な奴だな」

 「チビ人間には言われたくねーですよ」

 「はいはい」


 昼食はオムライス。雛苺はケチャップで卵の上に絵を描いてから食べている。真紅は姉ちゃんに食べながらも姉ちゃんに味のことで何か言っている。翠星石は蒼星石と食べながら話をしている。蒼星石、いつきたんだろう・・・。

 図書館に行く準備を整えた後、姉ちゃんに声をかけてから玄関まできた。居間の扉から翠星石が顔を出してこちらを見ている。

 「チビ人間。今日はゆっくり帰ってきていいですよ」

 「何で?」

 「別に深い意味はないですぅ」

 「なんだそりゃ」

 そういって翠星石は奥にひっこんでしまった。僕は特に気にせずそのまま家を出た。




 図書館での勉強ははかどる。冷暖房は完備だし。なによりうるさいあいつらがいないので、静かで集中できる。しばらくの間順調に勉強を進めた。そうしていると後ろから声をかけられた。

 「・・・桜田くん?」

 僕は振り返って答えた。

 「やあ」

 そこには柏葉が立っていた。図書館にくると会うことが多い。

 「調子はどう?」

 「うん、なんとか順調かな」

 「そう、私も今日はここにいるから。何かわからないことがあったら言ってね」

 「ああ、ありがとう」

 そうして僕はまた勉強を進めた。今日はずいぶんと調子がいい。いつもより長めに時間をとった。



 「桜田君、私そろそろ帰るね」

 「え? ああ、もうこんな時間か」

 気が付けば時間は夕方に近かった。

 「あ、うん、わかった。僕はもう少しいるから。」

 「そう。じゃあまたね」

 「うん」

 柏葉は先に帰っていった。僕はそのあともうしばらく勉強を続けた。日も暮れる頃には、僕も図書館を出た。




 家に着くころには日は沈んでいた。

 「ただいまー」

 「あ、ジュン君。おかえりなさい」

 「その様子だと、もう晩御飯できてる?」

 「ええ、ちょうどできたところよ」

 「んじゃ食べよう」

 夕食は花丸ハンバーグ。みんなうれしそうに食べている。これって普通のハンバーグに花型の目玉焼きが乗っただけなのにな・・・。

 ふと横を向いたら翠星石と目があった。あわてて目をそらす翠星石。そこまであわてなくてもいいと思うあわてっぷりだ。蒼星石、帰ったみたいだ。

 食事後にはみなで紅茶を飲む。真紅は相変わらず注文が多い。

 「のり、茶葉が開ききってしまっては味が落ちてしまうわ」

 「ご、ごめんね〜。真紅ちゃん。タイミングがなかなかわからなくて」

 「まったくもう。それくらいはできるようになってもらわないと困るのだわ」

 紅茶が奥が深いというのはそれなりに知っている。だが、真紅のこだわりは尋常ではないと最近では思っている。

 「また勉強するから」

 僕はそう言って部屋に戻った。




 今日の分の勉強を終え、ゆっくりと休んでいるときだった。階段のほうから声が聞こえてくる。

 「翠星石、渡さないままでは後悔するわよ」

 「あげないならヒナが食べちゃうなのよー?」

 「うるさいです!だまりやがれですぅ!これからちゃんと渡すですよ!」

 何を言っているのか。細かいところは聞こえないが、翠星石が大声で何か言っているのはわかる。僕は不思議に思い声をかけた。

 「おまえら、そんなところで何やってるんだ?」

 「ひゃ! べ、べつに何もないですよ!」

 翠星石が明らかに動揺しながら答えた。

 「何もなくはないでしょう、翠星石」

 「真紅は黙ってるです!」

 「あら怖い怖い。雛苺、下へ行っていましょう」

 「はいなのー」

 そういって真紅と雛苺は居間に入っていった。翠星石はそのまま残り、なにやら考え込んでいる。

 「あの」

 「ん?」

 翠星石は何かを言いたそうにこちらを見上げている。

 「あの・・・」

 「どうした?」

 「今日は何の日か知ってるですか、チビ人間?」

 「今日・・・?」

 さっぱりわからない。僕の誕生日でもないし。周りがそうというわけでもない。

 少し考え込んでいると急に得意げになって翠星石は言った。

 「ふっふーん、やっぱりチビチビ人間に誰もチョコをあげる奴などいないようですねぇ」

 「チョコ・・・? そうか、今日はバレンタインデーか」

 僕はその時初めて気が付いた。たしかに今までチョコをもらったことなど一度もない。姉ちゃんがくれたことはあるが。

 「だからなんだっていうんだ。だいたい僕はチョコが嫌いなんだ。」

 「・・・え?」

 翠星石は目を見開いた。

 「そんな、チョコ嫌いなのですか!?」

 「ああ、嫌いだね。ただ甘いだけの食べ物なんて芸がない」

 「甘いのが嫌いなのですか!?」

 「まぁそうだな。甘すぎるチョコなんて食べても意味はない。」

 ほっとした顔をして翠星石は続ける。

 「なら翠星石が用意したチョコを食べればいいですぅ。あまり甘くはないですよ。」

 「え・・・?」

 そういって翠星石はチョコレートを差し出した。透明なビニールの袋に包まれ、緑のリボンでラッピングされている。中には小さいチョコレートが5,6個ほど入っていた。

 「僕にくれるのか?」

 「べ、別にお前のために作ったわけじゃねーですよ! のりがお菓子にチョコレート買ってきたあまりを分けてやっただけですぅ! つべこべ言わずに受け取りやがれです!」

 「あ、ああ・・・。その、ありがとな」

 チョコレートを受け取り、開けてみる。一つ手にとってよく見てみると、

 「なぁ、これどうみても手作りだろ」

 少し歪なのに、しっかりトッピングがのっている。よくみると昔姉ちゃんが作ってくれたのに似ていなくもない。

 「あ・・・。あぅ・・・。それは、のりが買ったものではつまらないから、自分で作ったほうがおいしいとか色々・・・。」

 しどろもどろになりなんだかよくわからないことを言っている。

 「つまり、姉ちゃんに教わりながらわざわざ作ってくれたわけか」

 そのために僕がいるかいないかを気にしていたのか。そう思ってから顔を上げると、翠星石の顔は真っ赤になっている。

 「そ、そうですよ! チビ人間がいない間に作ったですよ! ありがたく食いやがれですぅ!」

 そう言って翠星石は背を向けて走り出した。そのまま鏡のある部屋に入って行くのが見える。すぐ後に光が洩れてきた。どうやらNのフィールドまで逃げてしまったらしい。

 (そ、そんなところまで逃げなくても・・・)

 僕は自分の部屋に戻ってチョコレートを食べることにした。




 「翠星石はまだ戻ってないの?」

 真紅が鞄の中から聞いてくる。

 「ああ、まだみたいだな」

 「まったく何をやっているのかしら・・・」

 「ヒナもうねむいの〜」

 「そうねもう寝る時間ですもの。私達は先に寝てしまいましょう。翠星石におかしな点はなかったのでしょう?」

 「ああ、おかしいというほどでもかったな。それに一応僕は起きて待ってるから」

 ふっと表情を崩しながら真紅は答えた。

 「そう・・・。優しいのね」

 「何がだ。別にそんなんじゃない」

 「あらそう。ではおやすみなさい」

 「ああ、おやすみ」

 雛苺は僕が真紅と話している間にすでに眠ってしまっていた。



 真紅たちが眠ってから一時間ほどたった頃、階段を忍び足で上がってくる音が聞こえた。

 (やっと帰ってきたか)

 そーとドアを開けて入ってくるのは間違いなく翠星石だ。

 「翠星石」

 「ひゃ、わ? あの」

 また逃げ出してしまう前に、僕は言っておきたいことを伝えた。

 「翠星石、チョコレートうまかったぞ」

 ぴたっと翠星石は動きを止め、その瞬間、花が開くように笑顔になった。

 「ふっふーん、翠星石が作ったものだから当然ですぅ。今度作るときはもっとおいしいものになるですよ!」

 「へぇ、また作ってくれるんだ?」

 「え、ちが、いや違くはなくて。あの、その」

 あせってまったく言葉になっていないことをしゃべっていた。一息おいてから、躊躇いがちに翠星石は続ける。

 「ジュンが・・・」

 「!」

 翠星石が僕を名前で呼ぶことは滅多になかった。

 「ジュンが、食べたいと思うなら。翠星石はいくらでも作るですよ。」

 「そうか、じゃあまた頼むよ」

 「・・・そうしたら」

 翠星石は何か小さい声で呟いている。

 「そうしたら、ジュンは翠星石だけを見てくれるですか・・・?」

 「ん? 何か言ったか?」

 「べ、別になんでもないですぅ! 翠星石はもう寝るですよ!」

 「あ、ああ。おやすみ、翠星石」

 「おやすみです、ジュン」

 翠星石の鞄の蓋が閉じるのを確認してから僕も眠りについた。口の中にチョコレートだけではない甘さがひろがっているような気がした。


[ 2006/02/14 19:49 ] SS | TB(0) | CM(4)