「明日、雨降るわよ」
六条蒼子は唐突に言った。
「そう」
見上げた空は清清しいほどに澄み渡っていたが、意に介した様子もなく桜井由里香は答えた。
「あれ、信じるの? テレビの天気予報とは違うのに?」
「そりゃあね、あれだけ言い当てれば天気予報よりも蒼子の言うことが正しいのかも、って思っちゃう」
「ふふ、ありがと」
そういって蒼子は柔らかに微笑んだ。その小さい優雅な笑みは蒼子の元々の美しさをより一層際立てる。
由里香は蒼子のこの笑い方が好きだった。自分にはできない上品な笑い方。鏡の前で練習したこともあるが、蒼子のそれとは似ても似つかない。
そのうち、蒼子だから似合うんのだろうと思うようになった。他の誰でもない蒼子の微笑みだからこそ、あれだけ美しいのだと。
「ねぇ、蒼子」
その整った横顔に声をかけた。
「なに?」
前を見ていた蒼子が少しこちらを向く。
「なんで自分には雨が降ることがわかるんだろうって、考えたことある?」
「もちろんよ」
「なんでだと思う?」
「きっとね」
そう言って蒼子は少し前に出て立ち止まり、振り返ってこっちを向いた。黒々とした長い髪が一瞬間遅れて、蒼子の動きに追いついてくる。
顔にかかる遅れ髪を指で押さえながら、私の目を見てこう言った。
「あなたに雨が降る日を教えるためよ」